
最近なにかと話題にあがる「低炭水化物食」。
管理栄養士の資格を持っていると、何かと聞かれる機会も多いです。
「ダイエットできるって聞いたけど?」
「身体に負担が大きくてよくないんでしょ?」
などなど、色々なことを聞かれます。
実は、低炭水化物食はまだまだ浸透し始めたばかりで、学会などでも論文やデータがそろっていないため、指針がはっきりしていないところがあります。
このページでは一管理栄養士としての個人的な意見を含めて、低炭水化物ダイエットについて説明します。
医師の中でも推進派と反対派がいるくらい意見のわかれるものですので、ぜひみなさんも色々な人の意見を聞き、自分の中で落としどころをみつけてください。
低炭水化物食(糖質制限食)とは?
炭水化物の量を通常よりも抑えた食事のこと。
炭水化物の割合を低くしたり、炭水化物量を減らした食事は昔からありましたが、ここ最近は極端な低炭水化物食にし、代わりにたんぱく質を増やす食事が話題にあがっています。
通常の食事では炭水化物量は50~60%、たんぱく質は15~20%が理想といわれており、管理栄養士は献立をたてる際、各種栄養素だけでなく、炭水化物・たんぱく質・脂質の各成分からどのようにエネルギーをとるかまで考えて組み立てています。
低炭水化物食は、炭水化物量を数%程度制限するゆるやかなものもあれば、10%近くまで下げてしまうものもあります。
10%近くまでさげてしまう低炭水化物食はカロリーも大きく減ってしまいます。
炭水化物のエネルギーは4kcal/gなので、結構な量が減ってしまい、エネルギーの維持ができません。そのため、その分たんぱく質の摂取量を増やしていることが多いのが、激しい低炭水化物食の特徴です。
ダイエットにいいの?
低炭水化物食に興味のある人は、減量やダイエットを検討している人も多くいると思います。
「実際、体重減るの?」と聞かれることがありますが、たしかに減量できます。
しかも短期間で結果がでます。
減量できるか自分で実験してみました
※この体験談だけを読んで、「痩せるなら続けよう!」とは思わないでください。
あくまで短期間だから行った自分を使った実験ですし(n数も少ないです)、全員に効果がみられるわけではありませんし、長期間続ければ痩せ続けるかといえばそうとも限りません(逆に太ったり、やつれたりするかもしれません)。
栄養学科在籍中、同期と低炭水化物食で本当に痩せるのか検証してみたことがありました。
3日間、メインの炭水化物を通常の1/3くらいまで減らし、その他のおかずも極力でんぷん質のものは使わず、肉を毎日最低+300g食らうという企画でした。
お腹が減った場合は、肉ならば食べても可!
3日後、ほぼ全員が0.5~2kg程度落ちていました。
そして、米をたらふく食べたくてしょうがない状態に陥っていました。
おかずが多いのに飯が食えないつらさにと言ったら...!
実際にやってみた感覚として、確かに体重は落ちました。
ですが、これ以上続けるのはつらいなと感じました。
感じる空腹感もいつもと違って、頭もふだんよりうまく働かなかったです。まぁいつもと大きく食事内容を変えているのでストレスもあったと思いますが。
教員に相談しながらやったのですが、教員も「短期間だからアドバイスしたけれど、長期間ではやらせるべきことではないと思っている」と言っていて、なるほどなと思いました。
もともと日本人は炭水化物ハイなところがあるので、多少の糖質制限は必要かもしれませんが
やってみた感覚としては、激しい低炭水化物食はせいぜいか短期間でおさめたほうがいいな、という感じでした。
もちろん、ラーメンライスが基本!みたいな人は、長期にわたってゆるやかに炭水化物を減らしていく必要がありますよ!
身体にいいの?悪いの?
これも制限量により異なりますが、個人的には制限の激しい低炭水化物食は長期では身体への影響が心配です。
また答えはでていない
最近ではいくつかの研究論文が発表されていますが、どれも一つの答えを導き出すものではなく、様々なデータが出ている状態です。長期的に肝臓や腎臓などへの影響を示唆するものもあれば、従来の脂質制限食よりは優れているという論文もあります。
様々な学会等でも、低炭水化物食に対するはっきりとした指針はまだ出ていない状態で、ここで「身体にいい・悪い」を結論付けることはできません。
ケトアシドーシスの可能性
ただ、長期間の影響のデータがとられていないということは確かです。
また、炭水化物ではなくたんぱく質からエネルギーをとるということは、脳はブドウ糖ではなくケトン体をエネルギーとせざるをえなくなります。
糖尿病等で、ブドウ糖をうまく吸収できない人は、緊急事態と身体が判断し、他のエネルギー源を作り出し脳を働かせますが、その際ケトン体が発生します。このケトン体、度が過ぎると「ケトアシドーシス」という命にかかわる危険な状態になることがあります。
糖尿病の場合は、ブドウ糖がうまく吸収できずに起こりますが、低炭水化物ではそもそもブドウ糖の元である炭水化物の摂取が少ないため、血中のブドウ糖濃度が低く、ケトン体が上昇してしまいます。
実際に、激しい炭水化物制限食を食べている場合、血中のケトン濃度が上昇することはわかっています。
ゆるやかな制限は糖尿病に有効
二型糖尿病の治療のために、昔から低炭水化物食は実施されてきました。
試行錯誤の末、現代でもゆるやかな低炭水化物食は有効性が認められています。
もちろん、人により病気の具合により異なりますが、医師の管理のもと低炭水化物食が有効に行われることがあります。
最近は極端な低炭水化物食が注目され、それらを好む人たちは激しい道をつきすすみ、それってどうなのと思っている人たちは低炭水化物食をなんだか特異的な食事として扱っている風潮があるように感じています。
きちんと食事全体を理解し、その人と体調にあった食事が大切だと思います。
まとめ
低炭水化物食の話は、記事にするか悩みましたが、現時点での私の気持ちを記しておきたいなと思いました。
色々な意見があると思いますが、一管理栄養士の個人的な意見だと思ってください。
同じ管理栄養士でも違う意見の人はいますし、医師や学会間でも意見の違いはあります。
これから数十年かけてデータが蓄積されていき、議論の決着がつくときがくると思います。
ただ、どんな優れた食品でもそればかり食べることが健康になることではありません。
トマトダイエットしかり、納豆ダイエットしかり。
少なくとも減量を目的とするのなら、「偏りなく適正量な食事」と「適度な運動」が最適です。
特に長期的に適正体重でいたいのならば、食事を激しく変えることはおすすめしません。
減量目的の方は、こつこつやっていきましょう。
低炭水化物食のエビデンスもそうですが、データはすぐにはでてきませんが、確実にでてきます。